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インテリジェンスにおける仮定とバイアスの罠を理解し克服する

Tamura

Tamura

2023.09.21

 

仮定は、インテリジェンスを生産する際に欠かせません。仮定はインテリジェンスの「呼び水」であり、プロセスを軌道に乗せるものです。(アナリストが)空白を埋め、生データを理解するための手助けを、情報が不完全だったり様々に解釈できたりする時に、行ってくれます。一方で、定義から明らかなように、仮定とは、証拠がないにもかかわらず、真実として採用された考えや結論のことです。不十分な情報や古い情報を根拠としていたり、さらには憶測であったりする場合があります。インテリジェンスの世界において、仮定は時に危険であり、不適切な意思決定、機会の逸失、セキュリティの侵害を招くことがあります。

*本記事は、弊社マキナレコードが提携する英Silobreaker社のブログ記事(2023年8月9日付)を翻訳したものです。

厄介なのは、仮定が自己成就的な予言となり得るという点です。ある敵対者が何かを行いそうだと仮定すれば、多義的な情報を、自らの仮定を確証するものとして解釈する確率が高まるかもしれません。そのような解釈を行えば、誤った結論を基に意思決定することになりかねません。

例えば、ある敵対者がテロ攻撃を計画していると仮定する場合、無意識的に自らの仮定を支持する証拠を探し求めるあまり、仮定と矛盾する情報を、見落としたり誤って解釈したりするかもしれません。こうして、誤った情報や誤った場所ばかりを見る羽目になるかもしれません。結果として、攻撃が発生するかもしれないと思い込んだ地域での不審な活動を報告するのに時間をかけながら、現実の脅威を見落としたり、逆効果を招く行動を取ったりすることになりかねません。

仮定の難点を回避する

仮定が孕むリスクを回避するための一番良い方法は、仮定に気づくことです。インテリジェンスの評価を下そうとする際に、自らの仮定がどんなものか、情報をどこで得たか、自らの仮定がどれほど正確で完全かを、自分自身に問うのです。インテリジェンスにおける仮定が孕むリスクを回避するためには、以下のことを行います。

自分の仮定を疑う

自分の仮定を額面通りに受け入れないことです。手に入れた情報を説明する方法が他にないか、自問しましょう。

新しい情報を拒絶しない

自分の仮定に疑義を突きつけかねない新しい情報を拒まないことです。世界は絶えず変化しているので、自分の知識も変わって当然です。

自分自身のバイアスを自覚する

自分自身のバイアスを自覚するとともに、バイアスが自分の分析にどう影響を与え得るかを自覚しましょう。私たちは誰しもバイアスを抱えており、バイアスのせいで証拠に裏付けられない仮定を立てることがあります。

「バイアス」は仮定と密接な関係にあり、インテリジェンスの失敗の大部分が、各バイアスを直接の原因とする、誤った仮定から来ています。バイアスが原因で、アナリストが別の説明の仕方を無視し、「筋書き」に合わない情報を軽視する恐れがあります。情報は、都合の良い解決策に傾くアナリストのバイアスに適さないために、軽んじられることがあります。また情報は、アナリストのバイアスによって視野が過剰に狭まっているために、見落とされることもあります。

バイアスのリスク

Psychology Todayによれば、バイアスとは「ある物事や人に向かう傾向、性向、偏見」を指します。バイアスの中でも、特に意図しないものには、否定的な意味合いがあります。バイアスは、人が生きている限り、避けられないものではありますが、思考や知覚を歪め、最終的には誤った仮定や欠陥のある分析の元となることがあります。バイアスは、アナリストが問いを表現する方法の中に入り込むことがあり、アナリストの性別、民族的背景、経験といった要因の影響を受けることもあります。

認知バイアスには様々なものがあり、いずれも、思考の形成、行動、意思決定、調査に影響を与えたり、正確なインテリジェンスの収集を妨げたりする可能性があります。個人、組織ともにバイアスを持ち込むことがあります。よって、内面と外部の両方にバイアスの原因があります。

内面バイアス

内面バイアスは、個人の特性であることがほとんどです。典型的な内面バイアスの原因には、以下のようなものがあります。

想起集合の推論

アナリストが何らかの有力な思考方法に頼ることを指します。想起集合の推論は、過去の経験に基づくものであり、アナリストは、他の説明の仕方を探ったり、昔の経験と矛盾しかねない新しい情報を探ったりしません。

時期尚早な結論

通常、単純な解決策や安定性を求め、物議を醸したくないがために起こります。早まった問題解決に繋がることがあります。

ミラーイメージング

「馴染みの薄い状況を、馴染みのある状況に基づいて判断すること」と定義されます。アナリストが、急いでやらねばならないことは自分も相手も同じだと決めてかかり、自らの価値観、信条、期待を敵対者に投影することを指します。

権威主義

アナリストが、ある情報源を特に好むあまり、比較的信頼できないと一般に考えられている別の情報源を蔑ろにすることです。1つの権威にすがることで、代替手段を検討する責務を免れるのです。

共感の欠如

敵対者の考え方に対する共感が欠けていると、敵対者に実際にできることを正しく理解できなくなるため、敵対者を過小評価することになりかねません。

アンカリング

アナリストの思考は、別の「専門家」に支配され、過剰に影響を受けています。

支配的理論

内面バイアスに関して言えば、アナリストが情報を、予断でこしらえた理論に矛盾しないよう操作することを指します。または、その理論の誤りを証明したり、別の説明の仕方を支持したりするデータを、軽視することを指します。支配的理論は主観性を生み、有意義なインテリジェンスの発生を妨げます。発生したとしても、それは偶然です。なぜなら、他の説明が考慮されていないためです。

外部バイアス

個人の外部にあるバイアスの原因は、組織の内外に存在します。

偏狭さ

偏狭さは、組織のルールや規範に過度に忠実な人がいる場合に発生し、そうした人に、特定のことにだけ注目させたり、過去に下した判断を頑なに信奉させたりします。集団思考の原因となることがあります。

支配的理論

カスタマーバイアスの危険な外部要因であり、「政治的な」動機が裏にある場合があります。インテリジェンスは、カスタマーの支配的理論を支持しない場合、無視されたり、軽視されたりすることがあります。しかし、重大な「悪い知らせ」をカスタマーと共有することは、アナリストの責務です。これは、例え勇気が必要な場合であっても、変わりません。

ワーストケース・アナリシス

過度に懐疑的、悲観的になり、用心し過ぎていることの現れであり、内面バイアスの要因にもなることがあります。過去の経験が原因であることが多く、個人または組織の先入観を反映している場合があります。

確証バイアス

既に正しいと信じられていることの根拠となる情報を選ぶ、認知バイアスの一種です。最も一般的なバイアスの1つで、多様な情報源を分析する方法に影響を与えることがあります。

確証バイアスは、選択的思考です。そこでは、仮定や予断を確証する情報が、

・無意識的に目に留まり
・積極的に求められ
・過大評価され
・無条件で受け入れられます

そして、仮定や予断と矛盾する情報は、

・無意識的に無視され
・求められず
・過小評価され
・即座に却下されます

収集の計画を立てる段階においては、確証バイアスが原因で、アナリストが都合の良い仮説を確証する情報をより重視することがあります。すると、そうした仮説の誤りを証明しかねない情報は、無視されたり軽視されたりします。この埋め合わせをするため、アナリストは競合する仮説の分析を、都合の良い仮説を確証するためでなく、覆すために行うべきです。

バイアスに立ち向かう

誰もがバイアスを抱えていますが、バイアスを自分自身の目で見ることは時に困難です。例え、バイアスを自覚していても、それに何かしらの手を打つことは簡単ではありません。しかし、バイアスの存在を知るだけでも、その影響力を弱めやすくなることがあります。

したがって肝心なのは、問題を様々な角度から(多くの場合チームで)考え、捉え直すことです。他にも、生得的バイアスに対抗するためにも使える手段が、いくつか存在します。例えば、以下のようなものです。

問いを別の言葉に言い換える

問いは、意図を変えずに言い換えることが可能で、新しい見方や気づきを得るきっかけとなることがあります。

問いを180度回転させる

正反対の見解を取ることは、時に、驚くほど効果的です。

問いの焦点を広げる

あまりに単純な問いや、焦点の狭い問いは、カスタマーバイアスの徴候かもしれず、代替となる仮説を検討するのを妨げるかもしれません。

問いの焦点を変える

焦点を完全に変えるのは、難しいことです。より深い思考と創造性が求められるためです。しかし、最も生産的である場合があります。

ネットワーキング

同僚やカスタマーを分析プロセスに巻き込みましょう。新しい考え方によって、主張の欠陥が明らかになることが多いためです。ブレインストーミングや認知地図の作成などの技法を用いた、チームとしてのアプローチを使います。ピアレビューや討論によって個人的バイアスを見つけ、抑制することを検討しましょう。

仮定に磨きをかけ、インテリジェンスのバイアスを克服する

インテリジェンスの失敗のほとんどは、情報不足によるものではなく、誤った仮定と個々のバイアスによるものです。仮定とバイアスは、チェックせずにいると、アナリストが重要な情報を軽視したり、見落としたり、もっと深刻な場合は無視したりする原因となる場合があります。確かな、信頼できる仮定を立てることは、分析を成功させるための基礎です。こうした仮定を立てるには、全ての存在する情報を等しく考慮し、内面・外部の両バイアスに対処しなければなりません。

しかしアナリストが、手に入る情報全てを手作業で翻訳し、重複を排除し、処理するための時間に恵まれていることは稀です。このため、仮定の良し悪しを評価し、バイアスを乗り越え、良質なインテリジェンスを生産するのに苦心しています。

Silobreakerのような最先端のツールは、オープンソースやディープ・アンド・ダークウェブの構造化・非構造化データと、フィニッシュドインテリジェンスの収集処理を、自動化することが可能です。これにより、アナリストの時間と労力は節約され、アナリストは、仮説を検証する、トレンドを見抜くといった、より高いレベルのタスクに注力できるようになります。また、複数アナリストや複数チーム同士で、シームレスな情報共有と議論を行うことも可能になります。こうしたコラボレーションにより、よりバランスの取れた、客観的な分析結果を産むことが可能になります。

Silobreakerの性能は、幅広い情報にアクセスし、確かな仮定を立て、効果的にバイアスを克服する力をアナリストに与えるため、生産されるインテリジェンスの質向上に寄与します。インテリジェンスの質向上は、組織や利害関係者のより良い意思決定を支えます

インテリジェンスにおけるバイアスを克服し、ツールを用いて高品質で有意義かつタイムリーなインテリジェンスを確信を持って生産する方法について、もっと詳しく知りたい方は、こちらからSilobreakerのデモにお申し込みください。

Silobreakerについて

Silobreakerはサーフェスウェブからデータを集積し、ダッシュボード上に可視化するツールです。ニュース、ブログ記事、ソーシャルメディアなどの18か国語のソースからデータを自動収集し、傾向把握がしやすい形(グラフ、マップなど)に処理した上で表示します。

以下の画像は、Silobreakerの操作画面(ダッシュボード)です。このダッシュボードを使って「重大かつ悪用可能なCVE」に関するトレンドを追跡することが可能です。

日本でのSilobreakerに関するお問い合わせは、弊社マキナレコードにて承っております。

資料請求デモの申込については、以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。

 

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Writer

Kevin TongsSilobreaker社

著者

Tamura株式会社マキナレコード インテリジェンスアナリスト・翻訳者

訳者

一橋大学卒業後、新聞記者などを経て、マキナレコード入社。以降、翻訳スタッフとして、情報セキュリティやダークウェブ関連のインテリジェンスレポートや、マニュアル文書等の英日翻訳を担当。現在、アナリストチームの一員として分析・報告業務に携わる。翻訳者評価登録センター (RCCT)登録翻訳者。資格区分:Professional Translator(T00074)。

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