*本記事は、弊社マキナレコードが提携する米Flashpoint社のブログ記事(2023年6月28日付)を翻訳したものです。
ロシア・ウクライナ戦争のさなかで繰り広げられる事象、噂、考えなどを理解する上で、ソーシャルメディアやTelegramなどのメッセージアプリは重要な役目を果たし続けています。
プーチン vs プリゴジン
ウラジーミル・プーチン氏と、通称「プーチンのシェフ」として知られていたエフゲニー・プリゴジン氏との間のかつての親密な関係は完全に険悪化し、いまや16か月にも及んでいるロシアのウクライナ侵攻における最も注目を集めるストーリーの1つとなりました。しかし、両者の対立劇は6月23日にロシア国内で繰り広げられて息もつかせぬまま36時間続いた末に内部での分裂を生むに至っており、その影響はロシアを中心に世界中へ及ぼされ続けています。
Flashpointのコレクション内における、プリゴジン氏やワグネルグループに関連する言及の件数。(画像入手元:Flashpoint)
数々の出来事、噂、考えなどが展開される中、これらを(多くの場合リアルタイムで)理解しようとする個人や組織にとって、ソーシャルメディアやTelegramのようなメッセージングプラットフォームはその理解を助ける重要な存在であり続けています。この後お伝えする通り、またロシア・ウクライナ戦争におけるOSINT(オープンソースインテリジェンス)の役割に関する弊社の人気レポートでも取り上げた通り、諸組織は当然OSINTを自身のインテリジェンスおよびセキュリティ関連業務における重要な要素として捉えており、組織に対するリスクを理解するためにOSINTを活用しています。というのも、このリスクはロシア・ウクライナ戦争に関するサイバー戦の舞台や、物理的な戦場、そして情報戦の場に関連しているからです。ではさっそくプーチン氏とプリゴジン氏の対立に関する重大な2日間(6月23日、24日)を振り返り、関連する事象を当時の時点で、そして今理解する上でのOSINTの重要性を検証していきましょう。
Flashpointの物理セキュリティインテリジェンスプラットフォームのスクリーンショット。OSINT関連のコレクションにおいて、プリゴジン氏への言及を全世界で検索した際の結果が表示されている。
6月23日:ワグネルが自陣へミサイル攻撃を仕掛けたとして国防省を糾弾、軍事クーデター未遂に発展
6月23日、民間軍事会社「ワグネルグループ」の創設者であるエフゲニー・プリゴジン氏は、ロシア国防省(MOD)とそのトップであるセルゲイ・ショイグ氏がワグネルの傭兵に対してミサイル攻撃を実施していると非難し、その結果多数の死者が出たと主張しました。プリゴジン氏は国防省を「邪悪」だと評し、ミサイル攻撃に関与した者たちに責任を負わせることを求めました。ただ、この動きがクーデーター、蜂起、反乱、あるいは交渉のための強硬戦術のいずれかに分類されるべきものかどうかは、その時点で定かではありませんでした。
Flashpointの物理セキュリティインテリジェンスプラットフォームのスクリーンショット。リアルタイムのオープンソースインテリジェンスにおける、「Prigozhin(プリゴジン)」や「coup(クーデター)」に関連する用語の検索結果が表示されている。
プリゴジン氏は報復として国防省に対する武力抵抗を公然と提唱する様子を見せ、これによりすでに緊迫状態だった両者の対立に拍車がかかりました。プリゴジン氏は「次の動きは我々のものになる」と警告し、また、その日殺害されたワグネル兵およびロシア兵数万人の死に責任がある者たちは「罰せられ」てロシア軍のもとにもロシア全体にも「正義」が「戻って来る」だろう、とも通告しました。一方の国防省は、上記のような非難を「現実に即していない」、「情報工作による挑発行為」だとしてはねつけています。
Round 2: #Shoigu hits back.
"All the video frames distributed on social networks on behalf of Yevgeny #Prigozhin about the alleged 'strike by the Russian Defense Ministry on the rear camps of the PMC Wagner” do not correspond to reality and are an informational provocation. pic.twitter.com/pBIPdFEdLc
— Jason Corcoran (@jason_corcoran) June 23, 2023
こういった最近の事象は、特にワグネルグループがプーチン氏に反旗を翻したことは、バフムトでの壊滅的な戦闘に端を発するとも考えられます。この戦闘でワグネルグループは大損害を被り、またロシアも多大なコストと犠牲を払う羽目になっていました。
6月24日:プリゴジンによるモスクワへの進軍
6月24日、プリゴジン氏は、自身が率いる民間軍事会社(PMC)ワグネルグループはモスクワへの進軍を中止すると発表しました。これにより、世間一般からロシアの軍部と政府首脳部に対する武装蜂起またはクーデターの試みとみなされた事態が終結しました。
Flashpointの物理セキュリティインテリジェンスプラットフォームのスクリーンショット。ロストフ・オン・ドンにおける検索結果が表示されている。
そして興味深いことに、ここでベラルーシのルカシェンコ大統領が介入してきます。ルカシェンコ氏は、ワグネルが「合法」なやり方で事業を継続できるようにする手段を提供したのです。この介入の結果、ワグネルグループとプリゴジン氏はベラルーシへ移ることとなりました。ロシアの1996年の刑法典に則ると、厳密には民間軍事会社は同国において違法な存在であることから、この一件は殊の外注目に値します。交渉の結果、ワグネル側とロシア側の両陣営はロシア領土内での「流血の惨事」を回避し、事態を鎮静化するための措置を取ることで合意しました。また、プリゴジン氏の主張によればこの時ワグネルの部隊はモスクワから200km以内の地点にまで達していたものの、同氏はこの進軍を取りやめることと、「(ロシア側の)野営地とは反対の方向へ」と退くことに合意しました。この見返りとして、ワグネルの兵士は「安全を保証」されることとなりました。
プリゴジン氏は、前日のロシアへの進軍開始以来、ワグネルの「戦闘員の血は一滴も」流されていない、と主張しています。しかし同氏は、ロシア軍がワグネルの進軍中に発砲を試みたとも主張しており、ワグネルは少なくとも1機、あるいは複数機のロシア軍ヘリを撃墜したと報じられています。また、ヴォロネジの燃料貯蔵庫でも火災が発生しましたが、この貯蔵庫はロシアのヘリコプターに攻撃された可能性があります。
親ワグネル派Telegramチャンネルに投稿された動画のスクリーンショット。ロストフのワグネル支持者らが、進軍へ向け出発するワグネルの部隊を激励する様子が映されている。(画像入手元:Telegram)
ワグネル軍は土曜日の早朝、ロシアの都市ロストフ・オン・ドンにある複数の軍事・行政関連の建造物を制圧し、その後、ロストフから500km北の、モスクワに向かう途中にあるヴォロネジ市に到達したと報じられました。そして6月24日、ロシアのメディアはワグネルがロストフ・オン・ドンを離れる準備をしていると伝えました。
それ以来、ロシア政府はプリゴジン氏がロシア国内で告発されることはないと述べています。しかし一方で、同氏はプーチンから「裏切り者」と呼ばれるようにもなっています。なお、同氏に代わって両者間の取引を仲介したベラルーシのルカシェンコ大統領によれば、本記事公開時点でプリゴジン氏はベラルーシにいるとされています。
まとめ
今日のように地政学的情勢が変動し続ける状況において最新の動向を常に把握しておくには、ただ主流メディアをモニタリングするだけでは不十分です。そんな中、オープンソースインテリジェンス(OSINT)の収集は、ウクライナやロシアで起きている最新の事象を把握するための画期的な手段として浮上しています。OSINTを活用することにより、さまざまな組織・業界において、莫大な量の情報をふるいにかけて素早くノイズを排除し、最も重要な見解をリアルタイムで届けるということが可能になります。今回ロシアで発生した出来事により、現地の実情に関する多面的な見方を提供してくれるという点でOSINTというインテリジェンスリソースがどれほど有用かが示されています。
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※日本でのFlashpointに関するお問い合わせは、弊社マキナレコードにて承っております。
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