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対立する思惑:アフリカで影響力を争う西側諸国、中国、ロシア

Yoshida

Yoshida

2024.11.14

政治家や外交官には辺境とみなされがちなアフリカですが、ここ数年で新たな地政学的パートナーシップが形成され、西側諸国は中国とロシアに遅れを取りつつあります。西側諸国がこの数十年でアフリカへの関心を失くし、国内問題を重視する方向へ舵を切ったように見受けられる一方で、中国とロシアはその「空白を埋めること」に力を入れ、アフリカ大陸の主要プレーヤーとして存在感を発揮し始めました。中国はアフリカ最大の貿易相手国および出資国として米国や欧州連合を上回り、ロシアも西側の影響に対抗すべく軍事的パートナーシップの構築にますます力を入れるようになっています。

 

*本記事は、弊社マキナレコードが提携する英Silobreaker社のブログ記事(2024年10月9日付)を翻訳したものです。

西側諸国がアフリカで失墜

世論調査Gallup Wrold Pollの最近の報告によると、米国はアフリカで最も影響力のある国としての地位を失っており、サハラ以南の数か国で現在最も支持されている国はロシアでした。その理由の1つは、西側諸国がアフリカ大陸の自己認識と伝統を考慮せず、見返りを条件に支援を行っているためだと考えられています。アフリカ諸国は条件が付いた西側の援助を「新植民地主義」と認識し、時に不満を感じているのです。アフリカ諸国が求めているのは理解、平等な扱い、敬意であり、ロシアのような国々からそれが得られていると感じています。

さらに専門家筋は、米国のアフリカ戦略は軍事・安全保障支援による短期的な安全保障を優先しており、このアプローチが有効ではないと主張しています。それと同時に、EU加盟国間の内部対立が対アフリカ政策での協調と有効性を損ねているため、ヨーロッパの各国・各機関は安全保障上の代替策を提供できていません。国際政治研究所(ISPI)の報告書によると、EUは10年以上にわたってアフリカでの影響力を失いつつあります。例えば1995年、EUは北アフリカの数か国と共同宣言を発表し、2010年までに欧州地中海パートナーシップと自由貿易圏を立ち上げる意向を明らかにしました。しかし、この計画はそれ以来ほとんど進展がなく、1995年当時より同地域での結び付きが希薄になったばかりか、紛争も増加しています。

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のレポートによると、西側諸国や国際機関に対する失望はさらに悪化しており、その政策はアフリカ諸国にダブルスタンダードとみなされるようになっています。例えば、ロシアに侵攻されたウクライナに対する西側諸国の広範な支援も、アフリカ諸国の不満を募らせる結果となり、西側とロシアの争いとみなされることが多くなりました。またアフリカ諸国の指導者の多くは、アフリカにおける紛争への関心が相対的に低いことに気づいており、西側諸国から必要な支援や投資を得られないだろうと結論付けています。そしてその結果、こうした国々はロシアや中国を含め、新たな同盟国・支援国を探すことにますます積極的になっているのです。

アフリカにおける中国の関心

中国は米国とEUを上回り、アフリカ最大の貿易相手国および出資国となっています。中国企業は2013〜2023年の間にアフリカで総額7,000億ドル以上の契約を結んだと報じられており、2024年9月の中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)サミットでは習近平国家主席が今後3年間でアフリカに500億ドル以上の資金を提供すると表明しました

中国はとりわけ高速道路、港湾、ダムといったインフラや、電力網などの公共ネットワークの整備に重点を置き、自国の一帯一路構想(BRI)を利用して、天然資源が豊富なアフリカ諸国の大規模プロジェクトに資金を提供しています。

こういったプロジェクトの多くは中国企業がアフリカに資金援助し、インフラを構築する代わりに中国が鉱物、石油・ガスまたは農作物などの天然資源にアクセスできるという内容の契約に結びついています。このような契約は中国輸出入銀行(EXIMBANK)、チャイナ・レイルウェイ・コンストラクション、チャイナ・ステート・コンストラクション・エンジニアリングといった中国の国営企業と結ばれる場合がほとんどです。実際に、いわゆる「アンゴラモデル」においては、アンゴラが中国国営のEXIMBANKから融資を受けるために交渉を行い、その結果IMFからの資金援助や勧告を拒否できるようになりました。融資を受けた分は、アンゴラの石油を担保として複数の中国企業が建てるインフラの建設費に充てられています。この取り決めにより、アンゴラは2021年までに中国からの資金援助がアフリカ最多となったほか、原油輸出先の72%が中国になりました。

このような協定は「債務のわな」と表現されることもあります。さまざまな賃借関係を持つことで、中国がアフリカ諸国を自らの勢力圏内に引きずり込もうとする「計画的な戦略」という意味です。これは言いがかりに近い考え方かもしれませんが、いずれにしても中国が影響力を拡大し、資源へのアクセスを確保するために、負債を利用して地政学的戦略を展開している可能性があることは否めません。BRIをめぐる懸念が高まっているにもかかわらず、米国やEUはアフリカでのこの構想に反対するだけで、代替となるものを提示できていない状態です。

アフリカにおけるロシアの関心

ロシアによるアフリカへの関与は、中国や西側諸国のようなレベルには達していません。しかしこの大陸において自国の影響力を高めるべく、反欧米感情をますます利用するようになっています。ロシアにとってアフリカは、西側の支配力を弱体化させる「手段」の1つであり、米国一強時代が終わった後に「多極的な」世界秩序を作り上げる上でパートナーになり得る存在なのです。また、アフリカへの関与を強化する外交的な取り組みにも着手しており、経済的・軍事的な協力関係を深めるための要人訪問や、同大陸の資源から得られる自国の利益を確保するために軍事援助を行っています。アフリカの多くの指導者らは、西側からの批判がありつつも、こうしたロシアの経済協力拡大の取り組みを歓迎してきました。ロシアの狙いは、制裁を回避できるアフリカからの収入を増やし、戦時中の自国経済を支えることです。さらにアフリカ諸国では、ロシアの影の船団(石油タンカー)も数多く登録されています。

ロシアはアフリカの30か国以上と契約を交わし、これらの国々に武器や軍装備品を供与してきました。ロシア国防省はアフリカの駐留部隊を再編した上で、その名称を「ワグネルグループ」から「Africa Corps」に改名し、このグループを同省直属の組織にしました。

2018年、初めての派遣先として中央アフリカ共和国に送られたワグネルグループ/Africa Corpsは、ブルキナファソやニジェール、マリ、スーダン、リビアなどのアフリカ諸国で存在感を示してきました。Africa Corpsの司令官アントン・エリザロフ氏は2024年初頭に発表した声明で、この部隊は「ロシア連邦の利益を守る、そして世界中のどこであろうとこれを遂行する」と述べています

おわりに

西側諸国はアフリカで民主主義や人権、善政を推進しようとする中、上記の問題をめぐってたびたびこれらの国々を批判し、時にはアフリカへの関心を失っているようにも見受けられました。その一方で、中国とロシアは西側諸国からアフリカ諸国のパートナーとしての地位を奪おうとしています。中国はインフラ開発に注力していますが、アフリカにおける経済的影響力の拡大を狙ったBRIを含め、その投資の主な目的は経済的なものではなく、地政学的なものだと議論されています。アフリカにおけるロシアの関心も、主に西側の影響力に対抗し、自分たちが国際的に重要性の高い国であることを示したいという願望に動機付けられているものです。ロシアはアフリカの、とりわけ西側の影響力が低下している国々で影響力を広げ、新たに「多極的な」世界秩序を確立するためのパートナーを見出そうとしています。

寄稿者

  • Hannah Baumgaertner, Head of Research at Silobreaker

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