[6月23日公開、25日更新]
本ブログ記事では、激しさを増すイスラエルとイランの対立において、物理的な戦闘とサイバー作戦がどう交錯しているのかを探ります。
*本記事は、弊社マキナレコードが提携する米Flashpoint社のブログ記事(2025年6月18日付)を翻訳したものです。
イスラエルがイラン各地の核施設、軍事基地、司令部、戦略拠点を標的とする大規模軍事作戦「Operation Rising Lion(ライジング・ライオン作戦)」を開始した2025年6月13日以降、両国間の緊張は急激に高まっています。イスラエルは攻撃開始から24時間も経たないうちに、イランの軍高官と核関連要員を排除しただけでなく、核インフラと対空防衛システムに甚大な被害を与えたと主張しました。
直接的な報復として、イランが「Operation True Promise 3(真の約束作戦3)」を開始したため、水面下で長らく繰り広げられてきた両国の戦いは本格的な紛争に発展しました。テルアビブに向けて弾道ミサイルを次々と撃ち込むイランに対し、イスラエル空軍(IAF)もイラン領内の奥深くで空爆を重ねるなど、この緊迫した状況を世界は固唾を呑んで見守っています。
「次に何が起こるのか、はっきりした予測はできない。『イスラエルがXをすれば、イランはYをするだろう』という程度だ。中東の地政学的リスクは常に戦争と平和の間のグレーゾーンにある。現時点で最も可能性が高いのは、地上で、そしてサイバー空間の片隅でも、事態が落ち着く前にさらなるエスカレーションに発展することだ」
– Andrew Borene(Flashpointグローバルセキュリティ部門エグゼクティブディレクター)
米国は6月22日、フォルド、ナタンズ、イスファハンにある3つのイラン核施設を爆撃する形でこの紛争に介入しました。翌日23日には、イランが中東にある複数の米軍基地に対して作戦「Basharat al-Fath」を実施する旨を発表し、カタールとイラクにある米国の軍事施設に向けて弾道ミサイルを複数弾発射しました。この危機的状況が深刻化する中、同紛争による地政学的影響や広範にわたってもたらされる結果を理解することはますます重要になっています。
Flashpointは6月25日午前0時(日本標準時)にコミュニティ向けのオンライン説明会を開催する予定です。イスラエル・イラン紛争に関する最新情報について簡単に概説しますので、ぜひご参加ください。説明会では現行の軍事行動、サイバー戦争の動向、そして地域的・国際的な安全保障への幅広い影響について取り上げます。今すぐこちらからご登録ください。
時系列で追うイスラエル・イラン紛争
Flashpointのアナリストは、物理、地政学、サイバー空間においてそれぞれの状況を綿密に監視し、現在進行中のリスクのみならず、潜在的あるいは新たに出現する脅威を評価しています。「Operation Rising Lion」がスタートした2025年6月13日以降、イスラエル・イラン紛争は以下のような経過をたどってきました。
2025年6月13日
- イラン国内に運ばれた無人機と対戦車誘導ミサイルを使い、イスラエルがイランの防空網を弱体化。
- イスラエルがイランの核計画、防空体制、ミサイル能力、軍事指導部を標的とする「Operation Rising Lion」を開始。
- イランが「Operation True Promise 3」を発表、テルアビブに向けて弾道ミサイルを発射。
6月14日
- イランの核施設や軍事インフラを含む400以上の標的に対し、IAFが150回を上回る攻撃を実施。
- イランがイスラエル領内へ約200発の弾道ミサイルを発射し、200機を超えるドローンも送り込む。
- IAFがテヘランで80以上の標的を攻撃、同時にタブリーズとシラーズで空爆を実施。
6月15日
- イランがテルアビブとハイファに向けて新たに弾道ミサイルを複数発射。
- イスラエルがイラン内陸部に空爆を実施。
6月16日
- イランがイスラエルに対して大規模な攻撃を準備していると発表。
- イスラエルによる空爆がイラン国営放送局を直撃したほか、Xでは「シャヒード・バーゲリー(Shahid Baqeri)基地の地下施設を標的にしたイスラエルの空襲」を映したとされる動画が拡散。
- イランがイスラエルに向けて弾道ミサイル約10発を発射。
6月22日
- 米国がフォルド、ナタンズ、イスファハンにある3つのイラン核施設を爆撃。
- 米国土安全保障省(DHS)が、国家テロ警戒システム(NTAS)で新たなブレティンを公開し、イスラエルとイランの紛争によって米国全土で脅威が高まっていることを警告。
6月23日
- イランの国営メディアが、中東の米軍基地に対して作戦「Basharat al-Fath」が開始される旨を発表。
- イランが、カタールとイラクにあるとされる米国の軍事施設に向けて弾道ミサイルを複数弾発射。
- アラブ首長国連邦(UAE) がイランによるミサイル発射を受け、自国の領空を閉鎖。
- バーレーンやUAEを含む複数の湾岸地域で空襲警報が発動。
6月24日
- イスラエルとイランの停戦が発表される。
激化するサイバー戦
「これは、地上と闇に包まれたウェブの片隅の両方で戦われる新たなハイブリッド冷戦という世界を巻き込む文脈の中で急速に燃え広がる新たな火種を意味しています」
– Andrew Borene(Flashpoint グローバルセキュリティ部門エグゼクティブディレクター)
Flashpointは、進行中の軍事作戦と並行して、サイバー活動の急激な拡大を観測しています。軍事衝突の開始以来、イスラエルを標的としたサイバー攻撃は700%も増加しており、攻撃の種類は破壊的なサイバー作戦から偽情報キャンペーンまで多岐にわたります。イランの弾道ミサイルの在庫が減少するにつれて、サイバー作戦が同国の非対称戦における主要な攻撃手段になるとFlashpointは予測しています。
国家支援型脅威アクター集団とハクティビスト
イスラエル・イラン紛争では、以下の高度持続的脅威(APT)グループが確認されています。
- APT34(別名OilRig)
- APT39(別名Remix Kitten、Chafer)
- APT404
- Handala Hack for Iran
- Al-Qassam Cyber Brigades
同時に、さまざまなハクティビスト集団がイランへの支持を表明しています。
- Mysterious Team Bangladesh
- Arabian Ghost
- OpIsrael
- Killnet
- CyberJihad Movement
- DieNet
- LulzSec Black
- Golden Falcon
一方、イスラエル支持の表明またはイランの非難を行うハクティビストグループは少数です。
- Predatory Sparrow
- Anonymous OpIran
- Syrian Electronic Army
- Edalate Ali
- GhostSec
イランの銀行を標的とした複数のサイバー攻撃が報告されており、広範囲にわたる混乱とデータ削除を主張する事例が相次いでいます。6月23日にはイランのハッカーが複雑なフィッシング攻撃を行い、イスラエルのジャーナリストや著名人のアカウントに侵入したと報じられました。イランの情報筋は、「占領地」のアルミニウム生産インフラへの「サイバー攻撃が成功した」と主張しています。これらのアクターによる組織的なキャンペーンや偽情報活動、同盟国または隣接する地政学的地域への潜在的な波及効果について、Flashpointでは今後も監視を続けていきます。
戦略的チョークポイント:ホルムズ海峡封鎖のリスク
イスラエルとイランの紛争がエスカレートする中、イランがホルムズ海峡を封鎖すると脅したことで、世界に影響を及ぼすもう1つの重大な懸念事項が浮かび上がってきました。
ホルムズ海峡は今もなお、世界で最も戦略的に重要な海上のチョークポイントの1つです。2024年から2025年初頭にかけて、世界の海上石油貿易の25%以上、そして石油・石油製品消費量の約20%がこの狭い水路を通過しました。ここが何らかの混乱に陥れば、世界のエネルギー市場に衝撃を与え、この地域の不安定化をさらに深めるだけでなく、湾岸諸国をはるかに超えた範囲にまで深刻な経済的影響をもたらす恐れがあります。
この海峡を封鎖することは、イランにとって代償を伴います。封鎖によって最も重要な石油輸出先の1つである中国との関係が極度の緊張状態に陥りかねない一方で、サウジアラビアやUAE、クウェートといった近隣諸国との関係が悪化してもおかしくありません。イランは海峡封鎖によって地域での立場を固めるどころか孤立を深め、複数国からの反発を招くばかりか、自国の石油輸出経済を危険にさらす可能性があります。
「ホルムズ海峡を封鎖するというイランの脅しは、テヘランにとって危険な賭けになるだろう。アラブの主要産油国を含む湾岸地域全体がイランを敵視するようになるリスクだけでなく、イランにとって不可欠な中国への原油輸出を断たれる可能性もある。結果として、イランはアラブ諸国と北京の双方から、ホルムズ海峡へのいかなる干渉も避けるよう圧力を受けることが考えられる」
– Andrew Borene(Flashpointグローバルセキュリティ部門エグゼクティブディレクター)
抑止力や影響力行使の手段として、イランが今後もホルムズ海峡を封鎖すると脅かし続ける可能性はあるものの、実際に海上交通を遮断する動きがあった場合、湾岸諸国と世界中のステークホルダーの双方から軍事的・外交的介入を招く危険なエスカレーションになるとFlashpointは分析しています。状況は依然として流動的であり、今後数日間は海軍活動と地域のエネルギー動向のさらなる監視が重要と思われます。
イスラエルとイランの軍事衝突で今後何が起こるか
この紛争は広範囲にわたる軍事攻撃や高度なサイバー攻撃、激化する言論と政治的緊張を特徴としています。急激な変動がいつ起きてもおかしくない状況が依然として続いており、当該地域のさらなる不安定化や死傷者の増加、そして国際社会を広く巻き込む可能性を秘めています。
Flashpointは現在進行中の紛争を引き続き監視していきます。このページをブックマークして最新情報や今後の展開をご確認ください。また、Flashpointのカスタマーヘルプセンターを通じてコミュニティコールの記録や概要、その他のリソースをご覧いただけます。
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