ヨーロッパは米国テック依存からの模索も、まずは「出口」を探す必要
The Register – Mon 11 May 2026
ヨーロッパが米国製テクノロジー依存からの脱却を目指す中、フランスのシステムエンジニアNicolas Roux氏が、ヨーロッパおよびフランスのデジタル主権(インフラ、ソフトウェア、データ、AIの各層)を分析し、政策立案者および公共部門の組織に向けた具体的な提言を盛り込んだ長文の政策報告書を公開。米国による「圧力」の下で破綻し得るのはどのシステムなのか、そうなった場合復旧までにどれくらいの期間を要するのか、どうすればリスクを低減できるのかといった課題に対する包括的な分析を提供した。
Roux氏の報告書に記された通り、米国が2025年2月に国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン主任検察官などを制裁対象に指定したことを受けてマイクロソフトがカーン氏の利用していたサービスを停止して以降、ヨーロッパの諸組織には米国製テクノロジーへの依存問題をめぐる危機感が広がっている。その後2025年を通じてカーン氏のみならず複数のICC判事・検事が制裁を科され、米国の決済システム・クラウドサービス・Eメールインフラ・ソフトウェアライセンスへのアクセスが不能に。VISAやマスターカードが使用できなくなり、Googleアカウントも凍結されるなどの影響を受けているとされる。
これらの制裁措置は、パレスチナ・ガザ地区での戦闘をめぐるICC判事・検事の判断に対抗して科されたもの。米国のテック企業は、米政府が特定の組織、国、個人を追求した場合、その方針に従ってアカウント凍結などの措置を取らざるを得ないこと、したがって、他国の政府機関や企業においては、米国のテクノロジーへ依存する限り、米国の政治的・戦略的意向次第でデジタル生活が突如脅かされる可能性があることが、この事例によって浮き彫りになっている。
こうした背景を受けて2026年3月には、欧州委員会(EC)のヘンナ・ヴィルックネン上級副委員長が、ヨーロッパの米国テクノロジーへの依存は専門家以外の層にも明らかになった「安全保障上の懸念」になっていると述べてデジタル主権回復の重要性を強調した。
ただ、米国が支配的な技術分野は多岐にわたり、相互依存関係も複雑に絡み合っていることから、デジタル主権に向けた取り組みは、どの分野が最も脆弱であり、どの分野が代替が最も困難であるか等を理解した上で進めていく必要がある。このためRoux氏は、以下8つのテクノロジー層について重要機能や依存レベルなどを提示。加えて、これらが阻害された場合のシナリオやヨーロッパ製代替製品への移行シナリオ、新たな立法を必要としない欧州レベルの政策手段などを詳細に記している。
<8つのテクノロジー層>
- クラウドインフラ・コンピューティング
- IAM
- エンドポイントセキュリティ・脅威検知
- 業務効率化・情報共有ツール
- 決済・金融取引
- コンテンツ配信・可視化ツール
- 人工知能・データ処理
- ソフトウェア開発・デリバリーインフラ
Roux氏によれば、例えば「AWSサービスのフルカタログをヨーロッパのプロバイダーの製品に置き換える」というような考え方で進めるのではなく、上記の各層について、「自組織が実際に必要とするものは何なのか」、「その具体的なニーズに対応可能な信頼できるヨーロッパの代替サービスはあるのか」を問うのが正しい進め方になるという。
ただ、米国製テクノロジーの圧倒的な市場シェアや米業界による強力なロビー活動など、米国依存脱却に向けた障壁は少なくなく、その取り組みは長い道のりになると思われる。テクノロジー以外の領域においても同様で、例えば英国・フランス・ドイツ・スペインが共同設立した航空会社エアバスが、米国の航空メーカーであるボーイングを抜いて市場シェア首位を獲得するまでには50年の歳月がかかっている。
とは言え、ヨーロッパに求められているのはテック市場を支配することではなく、デジタル主権を確保すること。時間がかかることは確実だが、まずは取り組みを始めること自体が重要となる。地政学的緊張が高まり続ける中、日本など米国との関わりが多いヨーロッパ以外の国々・地域においても、ヨーロッパの脱・米国テックチャレンジの動向に注目しておく価値は十分にありそうだ。
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